第214章 悪夢③
また、泣いてんのか?
お前はいつも……俺の後を追っては泣いて拗ねて……そのくせ、成長して年齢差を感じなくなってからは何をやらせても結局俺より器用にこなしやがる、嫌味な弟だった。
疑り深いと思えば、コロッと騙されて厄介なおっさんに中央に引き抜かれちまって……厄介な組織に足突っ込んで……面倒な奴だけどよ……
――――けどよ、やっぱりお前は可愛くて……大事な弟なんだ。
だから……お前にも、殺させない。
俺を殺したらお前は……自分を許せなくなっちまう。
例え生きていられたとしても、一生自分を呪うだろ?
――――そんな生き方、させたくねぇんだ。
霞んでいく視界に、自分から発せられる蒸気が舞い上がっていく様子が見える。その中に揺らめいた美しい黒髪が、見えた。
『――――なんで、来たの。』
『――――あ?』
不服そうなリンファが、眉を顰めて……泣き出しそうな顔で、唇を噛みしめて俺を見ている。
『――――なんで、なんで……もっと、足掻けよ……!生きる気で、なんとかしてみせろよ……!』
リンファはやり場のない怒りと悲しみをぶつけるように拳をぎゅっと握って、駄々をこねる子供のように訴える。
『おい、久しぶりに会えて憎まれ口からかよ?』
『――――だって……!あんたは、長生き、しなきゃ……っ…!幸せに、なって……欲しいから……っ……!』
『――――お前のいない世界は………なかなか退屈だった。』
『――――………。』
リンファはその切れ長で長い睫毛に縁取られた目を、見開いた。ぽろぽろと涙を零しながら。
『――――連れてけよ。一緒に。』
俺がほら、と手を差し出すと、リンファはまた顔をくしゃくしゃにして泣いて――――、飛びつくように、俺を抱き締めた。
『――――馬鹿、馬鹿……っ……!』
『………るせぇ。一緒がいい。』
『――――うん…………ごめんね……あたしも……連れて行きたい……。』
その細くしなやかな黒髪に指を通して、その細い身体を抱く。
――――愛してんだ、死ぬほど。