第214章 悪夢③
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そこは見たこともない、真っ暗な闇が続く空間。
大きすぎる巨大樹のような光るどデカいものがそびえ立っていて……そこに、見たことも無い少女が一人、佇んでいた。
その空間では俺は全身に鎖を巻きつけられ、体が自分の思うように動かせなかった。
“食え。食い散らかせ。何もかも。”
低い声で脳内に直接囁かれたようなその声が聞こえた瞬間、俺の意識はプツンと切れて……ぼんやりと見えているのに、思考も行動も制御されているような……嫌な感じだった。
俺の中に誰が別の奴が入って、俺を動かしているみたいだ。
俺の目には、目の前の真っ暗な空間と重なるように元の世界の景色が見えていて――――……俺の手は、アーチを掴んでいた。
――――今まさに食われそうになっているのに、アーチは泣きながらもそれを受け入れているような、顔をした。
――――駄目だ、このままじゃ俺は……殺しちまう。
食ってしまう。
アーチを。
兵長を。
――――いや、俺が食わなくても……殺させてしまう。心を削いで、傷を負ってまで……俺を殺させるのか?
――――そんなことは、御免だ。
だって心に誓ったばかりだ。
――――あんたを、守ってやるって。
『――――させねぇよ、絶対に……っ……!』
俺は自分の意識を雁字搦めにしているような鎖を、力の限り引きちぎった。真っ暗な闇の中に佇んでいた少女は、驚いたようにぽかんと口を開けて俺を見ていたように思う。
ようやく自分の意志で動けるようになって、俺はすぐにやるべきことを理解した。
――――殺さない。そして、殺させない。
――――それでいい。
やっと……俺は――――……リンファに会える。
何の迷いもなく、力の限り……これまで削ぎ切って来た項を……自らの項を、巨人の馬鹿力をもって爪を食い込ませて……引きちぎった。
――――と同時に、今度こそ本当に―――……視界が、ぼやけていくのを感じた。なんだ、案外あっけねぇな……。俺がその場に倒れ込むと―――――アーチの声が、発狂しそうな叫び声が、聞こえた気がした。