第214章 悪夢③
「――――赦せとは、言わねぇ。」
――――俺はやれる。
どれだけ時を共有した仲間でも。
これまで心臓を捧げてきたあいつらの死に意味を持たせる答えに辿り着くためなら。
――――ナナが笑う未来を、残せるのなら。
木々と伸びて来る腕の合間をすり抜けながら、無慈悲に……何の感情もなく俺の役割を全うするために、その項を削ぎまくる。
――――一人一人に思いを馳せてる暇は、なかった。
ただ最速で……苦しまないように、削ぎ切った。
ようやくアーチのところに行ける、と思った矢先……これまで微動だにしなかったサッシュが手を伸ばして、アーチを掴んだ。
――――食う気か……!
「に、い、ちゃ……、俺のこと、食いたいの……?」
サッシュはアーチの声が聞こえているのか、いないのか……ただアーチの悲痛な表情にも、泣きそうな声にも反応を見せないまま、顔の前までアーチを持ってきた。
「………いいよ。これくらいしか……恩返しもできないし……。出来の悪い弟で……ごめんな……。」
「――――馬鹿野郎っ……!」
――――俺が殺す。
アーチ、お前が殺せないなら俺が――――……サッシュを……。
アンカーを刺してサッシュに接近すると、今まで虚ろな目をしていたサッシュの目がギョロ、と動いた。
何度も何度も見て来た、人間を喰らおうとする目だ。
「!!」
―――だがその目の奥には……かろうじてまだあの馬鹿が……いるように、見えた。
「ァアアア……ッ………!!!」
何かに抗おうとしているのか、耳元まで大きく開いた巨人特有の口の端から涎を垂れ流しながら、頭をぶんぶんと振るような動作を見せる。
そして手に掴んでいたアーチの体に一瞬、ぎり、と力を込めると、アーチが恐怖と悲しみで断末魔のような声を上げる。
「うわぁあああッ……!!」
――――俺は刃を抜いて、サッシュを殺すための迷いもなにもかもを、その一瞬で捨て去った。
だがその時、―――――サッシュが俺を見た。
その目は……その表情は……
いつものあの――――……
俺が片翼を任せると照れながらも嬉しそうに僅かに笑む、あの顔だった。