第213章 悪夢②
「そう、私です。」
牢屋の外から男の頭に照準を合わせて銃を構えているのは、何かを固く決意した目をしたアイビーだ。
「――――アイビー…、……お前……っ……。」
「ナナさんから離れて、両手を頭の後ろで組んでください。」
「――――くそっ……!」
男はアイビーの言う通りに頭の後ろで両手を組んだ。その隙に腰に装着している銃を奪う。
「服、脱いでください。」
「は?!」
「あなた達が破ったんだから、貸してもらいますよ。服。脱いで、早く。」
「――――くそが……っ……!」
女からこんな反撃を受けるとは思っていなかったのだろう。
――――女は弱いと、思うなよ。
女は確かに力で男に叶わない……だから強かに、しなやかに、逞しくなるんだ。
男が脱いだシャツを羽織ってから、男を拘束する。
もう一人の上階ですやすやと眠っていた男にも銃を突き付けて叩き起こし、同じようにあられもない恰好で口枷と手足をきつく縄で結んで、2人揃って牢屋に縛り付けた。
「ありがとうアイビー。これで逃げられる。」
「――――ナナさん………。」
「ん?」
アイビーが昏い目を、彼らに向けた。
――――蔑み、憎む目だ。
「――――追ってきたら面倒です。殺しましょう。」
「…………!」
アイビーもまた……レベリオの地獄絵図をその目で見た。……人の命が目の前で失われすぎて……命の重さが……わからなくなっているのか。
ガタガタと震える大の男2人に、アイビーは銃口を向けた。
翼の日に見た、目を輝かしていた少女が……人に銃口を向けて、『殺そう』と言う。何がそうさせたのか……、それは、憎み合うこの世界なのか。愚かな私達人間なのか……。
心臓に棘のついた茨が巻き付いて締め上げるような……そんな苦しさを、感じた。