第213章 悪夢②
「――――それに……っ……、ナナ、さんの、ことも……っ、助けも、せずに……っ……!わた、わたし……っ怖くて……っ……ごめんなさいぃ……っ………。」
――――想像できる。
私をここに残して去る時、あなたはどんなに怖くて、辛くて、情けなくて、自分を許せなかっただろう。ぎしぎしと軋むベッドの音を、耳を塞いで泣きながら聞こえないようにしたんじゃないか。自分を責め続けてるんじゃないか。
崩れ落ちて土下座をするように私に謝罪をするアイビーの背中をそっと撫でる。
「――――元はと言えば、私がフロックさんに憎まれているからこうなっただけ。あなたのせいじゃない。」
アイビーはがばっと上体を起こして、涙でぐちゃぐちゃの顔を私に向けてまた訴えた。
「……でも、でもっ……!助け、られたかも……っしれないのに……っ、私……っ……!」
「―――それがね、実は私、大丈夫なの。」
「……………。」
目を大きく開いて涙をぼろぼろと流すアイビーの頭を優しく撫でる。
「例え誰に何をされても……、私の心も体も、乱せる人は……この世にただ一人だから。」
――――この世には、ね。
もう一人はあの空の彼方にいる。
「何も乱れない。何も変わらない。だから大丈夫。」
「……そんな、わけ……っ……。」
「―――ただ私は、その……この世にただ一人の人のところに、行きたい。こんなところに捕まってる場合じゃないの。ね、だからアイビー……逃げよう、一緒に。あなたもここにいると危ない。戻っておいで、私たちの調査兵団に。」
アイビーの目を真っすぐに見つめて言う。
私たちは対等だ。
被害者と加害者なんかじゃない。
アイビーが謝る必要はない。
そんなことよりも、次の一手を考えるんだ。ちゃんと。
アイビーは私の様子から心は折られてなんていないと分かってくれたのか……、自分のいたい場所は調査兵団だと思い直してくれたのか、また顔をくしゃ、としながら泣いて――――……答えた。
「―――――っ……は、い……っ………!」
「――――よし。それでこそ兵士。じゃあね……今夜。――――きっと彼らは……。」