第212章 悪夢 ※
「………おいおいどんだけ気にしてんだよ。お手柄じゃないか。お前らが何も知らない顔で差し入れたからあいつらも疑うことなくまんまと持って行きやがった。――――これで仲良く……みんな無能な巨人になれるってわけだ。」
「そうだよ。まっ、俺らには関係ないか。退屈な留守番だ。――――このお綺麗な補佐官の見張り役だとよ。つまんねぇ。人が巨人化するところ、見てみたかったけどな。」
――――吐き気がする。
なんでこんなに……人の命を、仲間の命を……軽く見ているの……?人の命を、なんだと思ってるの……?
今すぐ黙って。
私がまた、醜い憎悪にとりつかれる前に……。
ぎり、と唇を噛むと、私の隣に座っていた兵士から……嫌な視線を感じる。この視線は今まで何度も経験してきた。歪んだ欲望を含む視線だ。
「――――なぁ、ちょっとぐらい悪さしたって、バレねぇよな……?」
下衆な笑いを含んだ声にざわ、と全身が粟立つ。
「おいやめろよ、女の新兵がいるのによくないだろ。」
「なんだよ、教育上ってか?なら目の前で実践の性教育でもしてやればいいだろ。どうせ誰も来ない、暇つぶしの毎日だ。」
「―――まぁ、違いねぇ。」
監視役の2人の男の兵士は腹の底から嫌悪するような会話をしている。
――――このままじゃ、アイビーも危ない……。
イェーガー派として過激派に属するくらいだから、さぞ志の高い……自分達で国の行末を左右する自負のある兵士達ばかりなのだろうと思っていたけれど……自分の頭で深く考えずに、流れに任せて兵団を離反したこんな人たちもいるんだと知った。