第212章 悪夢 ※
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目隠しをされて、馬車に揺られていた。
僅かな情報ですら聞き逃さないようにイェーガー派の兵士たちの会話に耳を澄ませた。
目隠しがちょうどいい。随分と聴覚に集中できる。
声からして3名か……。
フロックさんは私がどんな手を使ってもハンジさんたちと共に行く、という覚悟を甘く見ているらしい。
――――監視が3人で……その中にアイビーもいる……!きっとうまくやれる。絶対に。そう己を鼓舞しながら、どの道を通って……いつ曲がったか。夕日が私の体に当たってぽかぽかと温かく感じるその場所と馬車の窓の位置関係と出発時の馬車の進行方向を組み合わせればおおよそ向かっている方角や距離も掴める。
――――目隠しなんてしても無駄。
全てを頭の中で組み合わせて描き上げる。屈しない、絶対に。聴覚、触覚、嗅覚を研ぎ済ませて得た情報を組み上げれば……大体の位置が分かる。
「――――おいアイビー、お前どうしたんだよ。ずっと顔真っ青だぞ。」
「なんでも……ないです……。」
――――ジャンがワインの真実を語った時のルイーゼとアイビーの表情は……あれは……その事実を知らなかった顔だった。そして真っ青になるほど何に怯えているのかということを、この馬車の中の会話で……知った。
「なんだよお前気にしてんのか?ジークの拘留を任された調査兵団の精鋭チームにワインの差し入れをしたこと。」
「――――う………ぁ、はあっ………。」
アイビーが苦しそうに、悶えながらなんとか呼吸をしている、そんな音がする。
――――そしてその兵士の言葉に、私の思考は一瞬停止した。
――――待って、ジークさんの拘留班にあのワインを……?
そこには……そこに、いるのは――――……
リヴァイさん……そしてサッシュさんにアーチさん、バリスさん……。
待って、飲まないで……お願い。
嘘。
そんな……もしそれを口にしてしまったら……、ジークさんの咆哮一つで……自分の意志もなく彷徨い人を食う巨人に、なってしまう。
――――そんなことが……そんな、悪夢みたいなことが……あるわけない。
そう……これはきっと何かの、悪い冗談だ……。