第212章 悪夢 ※
「なぁフロック!!あのワインにジークの脊髄液が入ってること……、仲間を兵器に変えちまうような代物だと知ってて……っ、止めなかったのかよ……!!」
その時のフロックの顔は、何一つ悪びれない……、そう、それが俺の信じる道に繋がると決意しての行動だったと物語っていた。
――――けれどその後ろの2人の少女は……途端に真っ青な顔をして、カタカタと震え出すアイビーの手を、ルイーゼが……同じく震えながらも小さく首を横に振りながらきゅ、と握った。
その様子を見て私は理解した。
――――あぁこの子達は……『あのワインには何かが仕組まれてるかもしれない』ということは勘付いていたけれど……中身は、知らされていなかったんだ。
そうだ、耐えて。
今はその動揺を見せるべきじゃない。
下手に動揺してその策に異議を唱えようものなら……イェーガー派からの離反を疑われたら……最悪この子達まで、フロックは処分するだろう。
「なにか問題があるか?元々馬鹿な憲兵共が、大きい馬鹿になるだけだろ。」
「――――っ………。」
フロックの言葉に一番ショックを隠せずに口元を覆って俯いたのは、アイビーだった。
ワインを運ぶ役でも担わせたのか、相当なショックを受けているように見えた。ナナもアイビーのただならぬ様子に気付いていて、心配そうにアイビーを見つめていた。足が震えはじめたアイビーが膝をつくようにがくん、と崩れたその瞬間、ナナがアイビーに駆け寄った。
――――けれどナナがアイビーの顔を覗き込もうとするその直前に、その腕をフロックが強く掴んで捻りあげた。
「――――っあ……!」
――――嫌な予感はしたんだ。
フロックがナナを見る目が、私たちに向ける目と違うから。