第212章 悪夢 ※
「でも……おかしいだろ!ジークの脊髄液を飲んだ時点でエルディア人は硬直するんだろ?!ラガコ村じゃそうだったって……!」
確かにそうだ。
けれど、私はその時……飛行船の中で相対したジークさんの目を思い出して……ゾクッと、した。
「――――うそ………?」
「――――ああ。ジークがそう言っただけだ。誰もその現場を見たわけじゃないから私たちには確かめようがない。だけど……たった一言で済むその嘘の効果は……絶大だ。――――だからパラディ島に来てすぐ……ジークは早い段階でラガコ村のことを話した。信頼を得るためじゃない。――――一つ目の、罠だった……。」
ハンジさんは眉を顰めた。
「確かに……ジークの脊髄液を盛られたら硬直する前兆がある、という事前情報を刷り込まれた人間は……その前兆が見られない限り……毒を盛られたかもしれないとすら……思わない……。」
私が彼を怖いと思うのは……彼に対する憎悪だけが理由じゃないと知った。
緻密で無駄が無い……そして息をするように嘘をつく……。
エルヴィンにもそういう怖さはあった。
……けれど人の命の捉え方が、まるで違う。
――――これが……何年も何年も、人間同士で殺し合いをしてきた国の…… “戦士長” と呼ばれる人の怖さなのだろうか………。
――――と、その時。
その部屋の大きな両開きになる扉がバン、と開いて……一斉に複数の銃口が私たちに向けれられた。