第211章 歯車④
「そこから動くな!!お前らもだ!!ただサシャの仇を討つだけだ!」
「……やめて、ファルコは違う……!」
ファルコ、と呼ばれた男の子を放して、と懇願する幼い少女の言葉を、ニコロさんは掻き消した。
「このボウズはお前の何だ?!お前を庇ってこうなったよな?!お前の大事な人か?!俺にも大事な人がいた!!たしかにエルディア人だ!!悪魔の末裔だ!!だが……彼女は誰よりも俺の料理を美味そうに喰った……!このクソみてぇな戦争から俺を救ってくれたんだ……人を喜ばせる料理を作るのが本当の俺なんだと教えてくれた……!」
――――ニコロさんの叫びは、痛いほど……伝わった。
ずくずくと痛む胸から血が流れるように、悲しくて……でもこんなにも憎悪に飲まれる自分が情けなくて……そんな感情を、私も知っている。
「――――それがサシャ・ブラウス。お前に奪われた彼女の名前だ……。」
「……わ、私だって……大事な人達を殺された!!そのサシャ・ブラウスに撃ち殺された!!だから報復してやった!!先に殺したのはそっちだ!!」
「知るかよ……どっちが先とか……。」
「目を覚まして!!あなたはマーレの兵士でしょ?!あなたはきっとその悪魔の女に惑わされてる!!悪魔なんかに負けないで!!」
「――――ブラウスさん。いいですか、あなた方がやらないなら、俺が殺します。」
最愛の人を悪魔と罵られて……ニコロさんはまた冷たい目をして、そこにいた大柄な中年の男性に目をやった。