第211章 歯車④
「―――ナナ、さん……?」
ニコロさんは我に返ったように私を呆然と見つめた。女の子は目の前で自分を庇って殴打された男の子に縋りついている。
「な?!あぁ……!!ファルコ!!」
「診せて!!!」
倒れ込む男の子の容体をとにかく見なければ、とその子の近くにしゃがみ込んだ瞬間、私の目の前にまだ溢れる憎悪を制御できない様子のニコロさんが立って、私たちをゾッとするような顔で見下ろしていた。
その瞬間、大きく振りかぶってニコロさんは――――私の隣にいた女の子を、激しく殴り飛ばした。
どごっ、と鈍く残酷な音を立てて、女の子の顔から血が飛んだ。
「きゃぁああっ!!!やめ、やめて、ください、ニコロさん……!!」
尚もその子を掴みあげて殴り掛かろうとするニコロさんの腕を掴んで、なんとか止めようとする。
「――――どけ!!!!」
「……あっ……!」
――――けれど、簡単に振り払われて、私はどさ、と倒れ込んでしまった。強い衝撃を受けて一瞬視界がぐらついてうまく立ち上がれずにいたその間に、ニコロさんは興奮状態で荒い息を吐きながら、その子達2人を抱えて行ってしまった。
私はなんとか立ち上がってフラフラと、彼の後を追った。
階段を上がって調理場を抜けた所で……、みんなの姿を見つけて私は駆け寄った。
「え?!ナナ?!」
ハンジさんとミカサとアルミン、ジャンとコニーと……オニャンコポンさん。来てくれたのか。ワインの真実を調べるために……。
「――――ハンジ、さん…!大変、なんです……!」
「えぇぇっ?!」
声がする大広間に向かう。
バン!と扉を開けると……鬼気迫る様子のニコロさんが、意識のない男の子の首に包丁を突き付けていた。
「寄るな!!下がれ!!そこから動くな!!」
ニコロさんの目の前には、もう一組のお客さん、と言っていたその家族連れの方々。
そして駆けつけた私たちにも目をやって、更に興奮した状態で言葉を発した。