第211章 歯車④
「ちょっと……待ってくれ……どうして……戦士候補生がここにいるんだ?」
―――――――まさか。
私の頭の中に、ハンジさんから聞いた『サシャを撃ったマーレの子供2人が牢から脱走したらしい。見つかっていない。』その言葉が思い起こされる。
私は壁に張りついて、そっとその声の主の風貌を確認した。それは間違いなく、飛行船の中でサシャに凶弾を浴びせた……その子達だった。
「一か月ほど前マーレのレベリオ区が島の悪魔共に奇襲を受けたんです!信じられないかもしれませんが……私たちは退却する敵の飛行船に飛び乗ったままこの島に上陸しました!」
「―――――………!!」
まさか、そんな。
ニコロさんにとってこの子達は――――……。
なんてこと……。
どうしてそもそもあの子達がここにいるの。
そしてどうしてニコロさんに接触を……?
そんな混乱の最中、ニコロさんの震える声がした。
「誰か……殺したか?女の兵士を……。」
「はい!!仕留めました!!」
私は石造りの冷たい壁に寄りかかり、片手で口元を覆った。
――――愛する人を殺した者が目の前で、その戦果を喜々として語る。
ニコロさんの胸中を想像すれば胸が張り裂けそうになる。私がジークさんに向けたあの胸中と重なる。
私ならどうする。
憎い。
殺してやる。
そう、思――――……
「――――お前が、殺したのか……。」
「え?」
ニコロさんの中で何かが崩壊したようなその声に、ようやく私は身体を動かせた。
「お前がサシャを!!!殺したんだな?!?!」
「――――ニコロさん、だめっ……!!!!」
壁の影から飛び出した時に見たニコロさんの姿は……憎悪に任せて、手に持っていたワインの瓶で子供の頭を力の限り殴打した姿。
女の子を庇って、男の子がその全力で振り抜かれたワインの瓶をこめかみにそのまま受け、ガシャン!!!とけたたましい音を立ててワインの瓶は粉々に割れ散った。