第211章 歯車④
「前菜はシードルにも合いますよ。パラディ島では珍しい食材を沢山使いました。どうぞごゆっくり。」
「はい……!」
大きなお皿に品よく数品が乗せられた前菜は、まるで芸術作品みたいに綺麗で……、サシャがいまここにいたら……ぺろっと全部一口で食べちゃいそう、と想いを馳せながら、記憶の中の彼女と共に食事をした。
「――――美味しい……!」
口に運ぶどれもが食べたことがないものばかりで、美味しくて……つい夢中で食べ進めていた。
サシャはどんな笑顔でニコロさんの料理を食べていたのだろう。
――――一緒に、食べたかった……。
その笑顔を、見たかった。
そう思うと……ぽろりと、涙が落ちた。
「……今は誰も、見てないから……。美味しいね、サシャ……。」
流れる涙を止めることはせずに、サシャと過ごしたあのお茶の時間を思い出しながら、次々と運ばれてくる料理をゆっくりと噛みしめた。
途中、ニコロさんがお肉料理を持って来てくれた時……私が涙していたものだから、ニコロさんは慌てふためいてしまった。
「えっっ、どうしました?!お口に合いませんでしたか……?!」
「いえ……、サシャと……美味しいねって言いながらお茶をしたときのことを思い出して……しまって……。」
「――――………。」
「ニコロさんのこの料理を……サシャはどんな笑顔で食べたのかなって想像するだけで、嬉しいのと……もう会えない……悲しさが溢れてしまって……ごめん、なさい……。」
私の言葉にニコロさんもまた悲しそうに目を細めて、俯いた。
その時、別の部屋ががやがやと騒がしくなった音が聞こえた。
「――――すみません、別のお客さんが来たみたいです。」
「はい、私のことはお構いなく。」
「――――グラスが空いてますね。同じ物を?」
「――――では………。」
私はその部屋の戸棚に置いてあるワインを指さした。