第211章 歯車④
「……どうしました?」
「あ、いえ……随分豪勢な部屋で驚いてしまって。ワインもたくさん……もしかしてここは、兵団の上層部がお世話になっているような場所なんじゃ……。」
「……ええまぁ。」
「そうですか……。」
妙な沈黙が流れてから、ニコロさんはある一卓のテーブルの椅子を引いてくれた。そのテーブル上には、大きなお皿と左右にはピカピカに磨かれたカラトリーが並んでいて……煌めくワイングラスがセットされている。
私はドキドキしながら、その席についた。
「飲み物は何にしますか?」
「――――ニコロさんがおすすめしてくださるものを。」
にっこりと笑って答えると、ニコロさんの瞳が一瞬揺れた気がした。
――――迷ってる……?
「……承知しました。」
ニコロさんが去ってから、私はバッグを足元に引き寄せた。
その中の自由の翼のジャケットの中には……コルク栓がついた試験管が入っている。――――ワインが出て来たら、飲んだふりをして……持ち帰る。
ロイの研究所で成分を調べれば何かわかるはずだ。
しばらくして、ニコロさんが前菜と一緒に持って来てくれたのは……透き通った黄金色のお酒。
どうやらワインではなさそうだ。
「わあ………。これは?」
「シードルです。」
「シードル……?」
「リンゴ果汁で作ったお酒ですね。サシャから……ナナさんがリンゴを差し入れてくれたって話を、聞いていましたから……。」
サシャとの思い出を語るニコロさんの表情を見て、私は直感的に大丈夫だと、この人は私に危害を加えないと、そう思った。
飲んだふりをすべきか実は悩んでいたけれど、きっと大丈夫。
「はい、サシャはリンゴが好きでした……。じゃあ、頂きます。」
小さく華奢なグラスに入った黄金色の液体を口に含むと、爽やかな果実香と酸味がとても美味しい。