第211章 歯車④
―――――――――――――――――――――――
ハンジさんの元を経ってから馬車で半日以上走って、前日には同じ町の宿に泊まってから翌日正午。ニコロさんのレストランに着いた。
ハンジさんは『おしゃれして楽しんでおいで』、と言ってくれたけど……いつ何があるか分からないから、動きやすい服装で訪れた。タイトなパンツに、少し艶のある生地のブラウスの首元に大きく結ばれたリボン。窓から吹き込む風で首元のリボンがふわりと揺れる。
そして手には少し大きいバッグを持っている。
その中には有事に備えて、自由の翼のジャケットを持ち歩いている。
馬車から降りたその場所は、大通りに面した良い立地で大きく立派な店構えのお店が目の前にあった。
「………すてき……。」
そのお店に足を踏み入れると、さっそくニコロさんが出迎えてくれた。
「あぁナナさん、ようこそ。」
「ニコロさん。お招きいただきありがとうございます。」
「いえ、遠路はるばるようこそ。どうぞこちらに個室を用意しています。」
「そんな、わざわざ……。」
「今日はもう一組別の家族もいらっしゃる予定でして。子供たちも含まれるので、賑やかになると思いまして……。ナナさんにはぜひ、サシャのことを思い返しながらゆっくり食べて欲しくて。」
ニコロさんが薄い笑顔を見せながら、お店の中を案内してくれる。僅かに引っかかるこの表情。サシャの墓前で話した時にも引っかかったんだ。
もし、もし……アイビーが残した『ワイン』のことが関係しているのなら。
ニコロさんがワインを頑なに進めて来るようなことがあれば……ワインに何が入っているか知っている可能性が高い。
――――うまく、やらなきゃ。
そんな決意は微塵も表に出さず、ニコニコしながらニコロさんの後をついて行った。
「――――どうぞ。」
通された部屋は、4人がけのテーブルがいくつかあるだけの小さな部屋。私はさっそくギクリとした。壁の棚には……マーレ産のワインがたくさん、並んでいる。