第211章 歯車④
「――――ワインの謎は、早めに解いた方が良さそうだ。」
「ハンジ、何か言ったかの?」
私が呟いた一言を、ピクシス司令は聞き逃さなかった。
「――――エレンの情報を民衆に流した情報漏洩罪で調査兵団内の懲罰房に入れていた新兵・アイビー・フォルステルがうちの補佐官ナナに情報を残しました。その一つが『兵団はエレンを別の兵士に食わせて始祖を継承させようとしている』ということ。そしてもう一つが……『ワインを飲むな』と。」
「………なに?」
ピクシス司令は片眉を上げて、何かに引っかかったような顔を見せた。
「ワインとは恐らくマーレから持ち込まれているワインのことだと推察します。非常に高価な代物故に―――……民間には流通せず、ほとんどが兵団内の上層部で消費されていると聞きますが。」
私の言葉に、それまで雄弁に物を申していたローグもナイルも僅かに怯んだように見えた。バツが悪そうにローグが口を開く。ナイルはその横で、後ろにいた部下に何かを命じると部下が資料を手渡した。その資料に目を落としていく。
「……そのワインが、何だと言うんだ。」
「それはわからない。そこまでは聞き出せなかった。おそらくイェーガー派と思われる看守がいる中での会話だったためだ。」
資料に目線を落としていたナイルの目がぴたりと止まって、ナイルは私に目を向けた。