第211章 歯車④
「ジークを信じるエレンを信じているんだろう。何より我々はジークを疑うだけで一歩も前に進まなかった。しかし結局のところイェーガー兄弟の地鳴らしに頼るしか我々エルディア国民に生きる道はない……とすれば……、貴重な時間を浪費してばかりでエルディア国民の命を脅かしているのは兵団のほうだ。そう思う兵士が多数出てきてもおかしくなかった……。」
ここまで言っても……ナイルもローグも……解せない、という表情を変えなかった。私は怒りを込めて、その真実を突き付ける。
「――――何より今回の引き金となったのは、兵団がエレンから他の兵士へと始祖の巨人を移そうと画策していたからだ。――――我々になんの知らせもなく。」
私の横にいたミカサが殺気を放つのが分かった。
ナイルはミカサに目をやって、ほら、とでも言うように悪びれずに答えた。
「……知らせていればどうなるかくらい……見当がついたさ……。」
「何よりイェーガー派の多くは調査兵団からだぞ。どう責任をとるつもりだ?ハンジ団長?」
ローグの責任追及の声に、私の冷えた心がより冷め切って行く。
――――今この事態で、兵団内で責任の所在と処罰を検討する時間がどこにある?
今一刻を争っている。
今動かなければ、兵団どころかこの島の未来、いや……世界そのものが終わってしまう可能性だってある。
本当の私なら……そう言ってローグに掴みかかっていそうなところだけど。………そうじゃない、今やるべきことはとにかく……そんな無駄な時間を、今度こそ前に進むために使うことを考えるんだ。
「いくらでも処分を受ける。しかし今私が兵団を退くことより無責任なことはない。それにイェーガー派はまだどの兵団にどれほど潜んでいるかわからないだろ?」
「……そうだ俺の目の前にいるかもしれない。今お前らが自爆したってちっとも不思議じゃない。」
――――ナナのあの『どうしてやりましょうか?』と悪戯で腹黒い目が頭を過る。
あぁ、あの一時がなければ……私は今この目の前のローグを殴り倒しているところだ。
ふぅ、と息を吐いて腹を落ち着ける。
――――今そんな下らないことに裂く時間は露ほどもない。