第211章 歯車④
「――――俺も兵団の今の動きには疑問はありますよ。」
「………ジャン。」
「だってそうでしょう。――――俺達に何も知らせず、煙に巻いたままエレンを別の兵士に食わせようとする。マーレの奇襲に最も最前線で命を張って来た俺達になんの断りもなく、だ。」
ジャンの怒りももっともだ。
特にこの104期が、いつも私たちに光を射してくれていたサシャを失ったことはとてつもなく大きい。
ジャンに呼応するようにコニーも口を開いた。
「――――サシャを撃ったガキ2人も、駐屯兵団の監視を逃れて脱走したって話ですしね。」
「――――ああ………。」
そうだ、ここのところの情報の錯綜と相次ぐデカい話の中でうやむやになっていたが、マーレから飛行船に飛び乗って来てサシャを撃ち殺した子供2人……マーレの戦士候補生を秘密裏に隔離し駐屯兵団を見張りにつけてしていたのだが、ある日――――脱走したと、小さく情報が流れて来た。
「――――それも脱走させたことをひた隠しにしていて、報告も……随分経ってからだったって言うじゃないですか。だから結局行方も知れぬまま……マーレ人の戦士候補生をこの壁内に潜ませてる結果になってる。」
珍しくコニーの声に怒りが込められているのは……サシャを想ってだろうか。
「――――そこは、弁解の余地はないね……。駐屯兵団の怠慢だと、私も同意だ。」
一言二言零したところで到底拭えない、この胸が詰まるような負の感情の数々。
それをなんとか各々の内側にしまい込んで、私たちは僅かな仮眠をとった。
思考が悪い方に行くときは休養が必要だと……それは私の座右の銘なんだけど、この思考が晴れることは……しばらくなさそうだ。