第211章 歯車④
みんなそれぞれ思うことがあるのだろう……。
兵団への憤り、エレンへの不信、ジークやイェレナへの嫌悪と疑念……。もう何度この子達のこの表情を見て来たか。
胸が軋む思いだ。
――――それでも私たちは立ち止まっていられない。
足掻いて、もがいて、後悔しないように……進むんだ。
ナナが言った、ならばどうしてやろうか?それを必死に考える。
「かといってすべてをジークとエレンに委ねるのは危険だ。現にもう一つ……アイビーが残した情報に、『ワインを飲むな』という内容が含まれていた。……これはマーレから持ち込んでいるワインを指しているんだと思うけど……、そのワインに毒物でも仕込む気なのか……誰が画策して何をする気なのかは、まだわからないけど……。ジークの思惑を早いところ解き明かさないと……何か……良くない事が起きる気がする。」
「――――もしかして、それで……ナナさん……。」
察しの良いアルミンが、ここにナナがいない事とそのワインとを結び付けた。
「そう、ナナは今ニコロのレストランに赴いている。ちょうどニコロに誘われたこともあって――――アイビーが言ったマーレ産のワインが最も自然に振る舞われるのがレストランだからね。ニコロが何かを知っているのか知らないのか、探るためだ。ほとぼりが冷めたら私たちも合流しようと思う。」
夜は必ず明ける。
明日もやるべきことは山積みで、刻一刻と時は刻まれるのに。その時の私達には、その窓の外に見える空は永遠に暗いまま……この闇の中で彷徨い続けるのではないかと思うほど、その夜は特別暗く感じた。
静まり返った空気の中、やりきれない思いを言葉に零したのはミカサだった。
「――――っ……兵団は……どうなってるの……?!エレンを……身内を疑ってる暇があるなら……できることはもっとあるのに……!」
「―――ミカサ……気持ちはわかるよ……。だけど疑われても仕方ない行動をとったのはエレン自身だ。」
「――――でも……っ……。」