第210章 歯車③
――――心の棘を柔い羽毛でくるんで……ふわりと溶かしてくれるような……そんな心地。
私の表情を見て、ナナは安心したように立ち上がった。今度は私のために紅茶を淹れに行くその姿を見て、あいつの気持ちが少し、分かってしまったんだ。
「――――手放したくない理由が、分かるよ。エルヴィン。」
誰より強い兵士であるわけもない。
誰より補佐官の仕事を熟知したベテランであるわけでもない。
誰の命でも救える万能な医者であるわけもない。
言うなれば兵士としても医者としても中途半端だと――――……いつか他所の兵士がナナの影口を言っているのを聞いたことがある。
――――違うんだ。
私たちがナナを必要とするのは兵士であるからでも、医者であるからでもない。
……誰より一生懸命に一人一人と向き合って、寄り添おうとする。
出口の見えない暗闇に迷い込んだ仲間がいれば、連れ出そうとしてくれる。
「――――ハンジさん?」
じっとナナを見つめる私を、ナナは不思議そうに見つめ返しながら紅茶の紅い液面が揺れるカップをことり、と置いた。
「……ふふ。いや、滾ってきた。飲みながら作戦会議と行こうか、補佐官殿。」
「はい!」
そして私たちはあらゆる情報を整理して、エレンを食わせようとしている兵団の本意と……実行に移そうとするのならいつ、どのタイミングか……、そしてアイビーが言いかけたワインは、一体何が入っていると言うのか。
頻繁に面会することは叶わないため、私とナナはうーん、と頭を捻っては……考えつく可能性を片っ端から議論した。