第210章 歯車③
「――――ハンジさん?」
私の様子に気付いたのか、椅子に座ったまま頭を垂れた私の目の前にナナが座り込んで、私の顔を覗き込む。
さらりと私の眼帯にかかる髪を細く白い指で避けて、私の目をじっと見つめてくる。
――――本当にナナには、情けない顔を見られてばかりだ。
「――――良くない目をされてますね。」
「………そう?大丈夫だよ。」
「―――私、ハンジさんが私にかけてくれる『大丈夫だよ!』はこの上なく信じてるんですけど……、ハンジさんがハンジさん自身にかける『大丈夫だよ。』は信じてません。」
――――ナナの言葉に、思わず私は目を丸くした。
「………『だったら』を考えてましたか?今。」
「………なんでわかるのさ。」
お見通しすぎて、笑えてくる。
私は……ははは、と乾いた笑いを零した。
「奇遇ですね、私も考えてました。」
「………だろうね。」
「――――ハンジさんが良くない事を考えているよう『だったら』、こうするって決めてます。」
悪戯な目をしたナナが、私の手を両手でぎゅっと、包み込んだ。
――――その手は小さくて白くて……この子の外見から想像すれば、どう考えてもふわふわですべすべな手のはずなのに……、その掌はごわごわで擦り切れていて……傷だらけで――――……私と同じだな、と思った。苦労してきた、戦ってきた手だ。
「――――あっちがその気なら、私たちは……次はどうしてやりましょうか?」
私を覗き込んだその目は、底意地が悪くて腹黒い……、逆境にこそワクワクする、怖いもの知らずの蒼い目に似ていた。
「―――――そうだね、鼻を明かして……突き付けてやろうか。話はそこからだね。」
「――――はい!」