第210章 歯車③
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「――――なんだって……?!それ、本当、なの……?!」
「――――はい……、アイビーが嘘をついているようには、私には見えませんでした……。」
ナナがアイビーに呼ばれて面会に行って……帰ってきたと思ったら、いつもは品のある動きをするナナが執務室のドアを跳ね除けるようにして息を切らしていたから驚いた。
――――でも更に驚いたのは、その報告内容だ。
『兵団がエレンを別の誰かに食わせようとしている』
『ワインを飲むな、何かが入っている。』
その二つの情報をナナから聞いた時には……背筋が粟立った。――――私たちに秘密裏に……兵団は、エレンを……扱いやすい誰かに食わして始祖の巨人の力を手中に収めようというのか。
「待って……それってどこ情報なんだろう……。」
「おそらく、アイビーやルイーゼの情報源はフロックさんしかないはずで……、フロックさんは別の兵団からの編入ということもあり、兵団内の情報網は強いはずです。――――私の王都の家の在処も……そのツテを使って調べていたようですし……。」
「――――だとしたら……イェレナがこちらを攪乱するためにわざと流させた偽情報って線は、薄いね。」
「はい。事実だと思います。それに……アイビーは看守の兵士にも聞かれないよう細心の注意を払って私にこれを伝えてくれました。――――フロックさんの一派は……他にもいるということです。」
「――――待って……まず、兵団が私たちに、黙ってその計画を進めてて………フロックはイェレナについてるってこと……?」
あぁ、良くない。
分かってる。
こんな時にこんな私情で腹を立てるのはおかしいって。
――――でもどうしても、考えてしまうんだ。
自分の不甲斐なさは一番自分がわかってる。
――――だから……思ってしまうんだ。
『もし調査兵団団長がエルヴィンだったら……兵団側もこの意向を……隠さなかっただろう。』―――――って……
ふつふつと、血が沸くような苛立ちと反して顔から血の気が引く感触がするのが、気持ち悪い。