第210章 歯車③
「私……っ………、あなた、みたいに……っなりたい……。」
「――――………。」
「――――なれますか、私……っ……、いつか、あなたみたいに……!」
アイビーが何をもってしてそう、思ったのかはわからない。
――――だって私はもう、あの翼の日のアイビーが憧れた……リヴァイ兵士長の横に並んで戦えるような兵士でもない。
命を救うしかできないのに、それも満足に行かずに落ち込んで、自分の非力さを呪って……、愛する人達を奪った人を憎んで……、渦巻く黒い感情をなんとか抑えているような人間だ。
そんな私でも……彼女にはどうやら、背中を追いたくなるように見えているらしい。人はみんな自分の眼鏡越しに……その価値観でものを見る。アイビーはとてもキラキラとしたフィルター越しに私を見ているのかもしれない。
――――ねぇ、いつかそんな話をしたね、エルヴィン。
そんなことを考えると…ふっと笑みが零れる。
「――――ありがとう、とても嬉しい。でも……きっとアイビーが見てる私は……実際よりもとっても素敵に見えてるだけなのかもしれない。」
「………そんな、こと………。」
「だからね、アイビーはアイビーのまま、自分が誇れる自分になったらいい。」
「――――………。」
「きっとなれるよ。」
考えて考えて、答えを出した。
その答えを……考えて、私に伝えてくれた。
後悔しないように考えて動けるあなたは強くて美しいと、尊敬の眼差しを向ける。アイビーはどこか驚いたような顔をしてから、ぐ、と背筋を伸ばして―――……誇り高く、右手に固く結んだ拳を心臓にどん、と添えた。
私もまた同じように、敬意を払って心臓を捧げる敬礼を返して……地下牢を、後にした。