第210章 歯車③
「――――随分下らない話に時間をかけているようですが。もういいでしょう?」
そう言って私たちの間からメモを奪い取って、じぃっとそれを見つめた。
「――――私は書き方をもう覚えたので、そのメモあげますよ?」
「………は?」
看守の子は眉を寄せて怪訝な顔を私に向けた。
「――――好きな子の名前を書いて胸ポケットにどうぞ?」
「ばっ……、馬鹿言わないでください!!」
「うふふ。」
「……ふふ。ナナさん、気がまぎれました。ありがとうございます。」
「――――ううん、こちらこそ……、とてもためになった。さっそく使ってみようかな、そのおまじない。」
「はい、ぜひ。」
私は鉄格子の間から手を入れて、アイビーの柔らかな金髪をそっと撫でた。
――――勇気が要ったに違いない。
でも、伝えてくれた。
自分の行く道を自分で考えて、決めて行動してくれた。
――――あなたを誇りに思う。
そう、目を細めて頭を撫でると……、アイビーは顔をくしゃ、と寄せて……涙を堪えた。
「じゃあ、私……行くね。」
アイビーの柔らかな髪から手を放して、鉄格子から腕を抜いた。アイビーに背を向けると、その背中越しに震えるような……泣きそうな声が私を呼んだ。
「――――ナナさん……っ……。」
「……………。」
振り返ると、アイビーはシャツ裾を両手でぎゅっと握り締めて、涙を堪えながら……眉間にぎゅっと皺を寄せて、可愛らしい顔をしかめて……言った。