第210章 歯車③
「――――ナナさん。」
「はい?」
「アイビーが話をしたいと言っていますが、どうしますか?」
「!!すぐ行く!!」
私は嬉しくて、地下牢への階段を駆け下りた。
牢の前に行くと、アイビーが以前よりも随分曇りのない顔で私の方を見た。
「アイビー、話ってなに?」
「………退屈で。」
「うん。」
「昔話に付き合って頂けませんか?」
そう言ってアイビーは、私の後ろに立っているのであろう看守の新兵の方に目線を向けた。
「――――………!」
アイビーが何かを、伝えようとしている。おそらく看守に聞かれたくない何かを。
「ね?ナナさん。」
「うん、もちろん。」
「――――翼の日の話とか。」
「いいね。」
アイビーは牢屋の中の椅子を廊下側に移動させて、腰かけた。私もまた、看守の子が椅子を持って来てくれて……、鉄格子越しに、アイビーの側に座った。
疑われないように、くすくすと笑いながら、しばらくは本当に談笑をして少しの時を過ごした。アイビーもまた、少女の頃の面影を時折見せながら……笑っていた。
私は看守の子に背中を向けている。
様子を伺うためにたびたび振り向くのも不自然だから、アイビーが看守の子に目をやるその表情に注目する。何度かチラリと看守の方に目をやり、『まだだ』と言うように目を伏せては、また昔話をする……を繰り返した。
ある時、微かに私の背後で聞こえた、あくびをするような音。アイビーはまた看守の子の方へ目線を上げてから、小さく……頷いた。