第208章 歯車
「――――サシャを、助けられなくて……っ……、ごめん、なさい……。」
「……あなたは……医者、だったんですよね……。」
ニコロさんから、掠れた冷たい声が降ってきた。
「……はい………。」
「―――こんなに頼れる仲間が、一緒にいて……、医者も……そこにいて……、なんで……なんでサシャは死んだんだよ………!」
ニコロさんを取り囲むジャンやコニー、ミカサもまた……私と同じように、目を伏せた。
――――何も言い返すことなどできなかったからだ。
「――――なぁ……っ……、お前ら、何やってたんだよ……!?」
ニコロさんがサシャの墓標に目線を落として……そこに彼女の名前を認めた瞬間、崩れ落ちた。
「なんで……っ……嘘だろ、サシャ……っ……!」
蹲るニコロさんに切ない顔を向けながらも、『なんで死んだのか』そう問われたことを、真実を……知らせるべきだと思ったのだろう。
コニーが、ニコロさんの背中に手を添えてその時のことを話し出した。
「――――作戦は順調だった。あとは飛行船で退却するだけって時に……、うちの兵士の一人を殺して、その立体機動で乗り込んで来た少女がいた。……そいつは乗り込んですぐにライフルを構えて――――……躊躇なく、撃った。」
嗚咽を押さえながら、体を震わせてその真実にニコロさんは耳を傾ける。
「……飛行船に乗り込んで来た少女に撃たれたなんて……そんな馬鹿な話があるかよ……。」
「――――ただの女の子じゃない。訓練されてた。」
話の信憑性を疑うニコロさんに、ミカサは言い切った。するとニコロさんは思い当たる、と言ったように顔をあげたけれど……その表情は未だ悲しみに満ちていて……私の胸がまた、爪を立てて引っ掻かれたようにじく、と痛んだ。
「………戦士候補生か。」
「――――俺の油断があった。すまない………。」
小さく言葉を零したのはジャンだ。
「………なんで俺に謝る?俺はただ……飯を用意してただけだ……。」