第207章 強
「……さっきまでさ。」
「はい。」
「エルヴィンに恨み言言ってたんだ。私。」
「恨み言……?」
「……そう、『なんで私なんかを団長にしたんだ。』って。」
ハンジさんは額に片手を当てて、自嘲するように笑った。
「――――私には………荷が重い………。上手くやれなくて……後悔ばっかりだ………。」
私は胸がきゅ、と苦しくなって……ハンジさんが座るソファの後ろに立って……天井を仰ぐハンジさんを上から覗き込むようにして、そっと両手で頬を包んだ。
「――――ハンジさんの眼帯……、最初は、見慣れなかったんですが。」
「うん?あぁ、そうだよね。ナナが……出産に備えて王都に帰る直前だったっけ。眼帯にしたの。」
「――――はい、見慣れないまま離れて……、帰って来ても、まだ慣れないです。」
「そう?――――もともと狭い視野がさ、余計に狭くなって……。」
「………………。」
「――――エルヴィンには見えていても、私には見えないことが……いっぱいで……、ナナ……っ………。」
「はい。」
「――――ちょっとだけ、弱音を……吐いても……いいかな……。」
「――――いくらでも。こう、してます。」
私はかがんで、ハンジさんの首筋の左側に顔を寄せた。
――――団長として、見られたくない涙もきっとある。苦しい、辛いなんて……言いたくないはずだ、彼女の性分を考えても。