第207章 強
「――――遅くなりました、ハンジさん。」
「ああ……ナナ。」
ハンジさんは珍しくソファの背にだらんと身体を預けてため息をついていた。
「何か話せた?あの……思春期反抗期真っ只中の爆弾みたいな少年とさ。」
触れたら爆ぜそう…、とでも言いたいのだろうか。
――――まったくその比喩はとてもぴったりだなと、少し口元が緩む。
「肝心なことは……なにも。」
「……そう。」
「でも、ヒストリア女王に妊娠すれば獣の巨人継承を免れると助言したのは自分だとは、認めました。」
「えぇっ?!」
ハンジさんがガタッとソファを揺らして私の方へ前のめりに身体を向けた。
「――――それってつまり――――………。」
「――――おそらく、ジークさんの思惑は……少なからずあるかと、思います……。」
ジークさんからすれば、パラディ島に着いてすぐ食われるなんてことは避けたいに決まってて。
獣の巨人を移す先と言えば、王家の血筋のヒストリア女王しかいない。その機会を先延ばしにすればするほど、自分の命が尽きるまで誰も……彼を殺せない。
そこにエレンの、ヒストリアを犠牲にしないという確固たる意志で利害が合致したとしたら。
エレンとすり合わせてエレンに……ヒストリアに進言させた……?
「……だとしたら、ジークには……私たちに持ち掛けて来た策以外の別の目的が……ある可能性が高いってことじゃないか。」
ハンジさんは青い顔をして、呟いた。