第207章 強
私の顔を見て、僅かに『まずい』とでも言いたそうな表情でぱっと目を逸らした。ひどく焦った様子で足元をそわそわさせ、両手をしきりに胸の前で小さく動かしている。
早くこの場を立ち去りたいと思っている―――――、そんな仕草だ。
「どうしたの?何かあった?困りごとなら……聞くよ?」
私の問いかけに、ホッとしたような顔で私の目を見た。
話を聞かれていなかったことへの安堵……?だとしたら、部屋の中の人物と何を話してたのかが……とても、重要だ……。
「なんでも、ないです。大丈夫です……。」
「そう?」
「――――はい………。」
「――――わざわざ団長補佐のナナさんの時間を割いていただくようなことじゃないので、大丈夫ですよ。ちょっとした……じゃれ合いです。」
「ルイーゼ。」
部屋の中から出て来たのは、ルイーゼだった。アイビーと同期の新兵。意志の強そうな、気の強そうな目をしている。
ルイーゼが出て来た時、アイビーは一瞬ピクッと身体を強張らせた。怖いのか……何かを警戒しているのだろうか。
「本当に大丈夫?……アイビーの様子が、なんだか変だから気になって。」
「だっ、大丈夫、です……!」
私から目を逸らして肩をすくめるその仕草は……隠し事をしている時の仕草なの。アイビー。
それに……腕を組むルイーゼがアイビーに向ける視線は……明らかな上下関係と、威圧だ。
――――良くない空気だな。
でもここで探りを入れ過ぎると、ルイーゼが警戒を強めるだけだ。
「そっか、良かった安心した。」
私はにこっと笑った。
「じゃ私団長のところに用があるからこれで。早く寝なよ?明日から……激動の日々が始まるよ。」
「はい……、おやすみなさい、ナナさん……。」
「おやすみなさい、ナナさん。」
「――――うん、おやすみ。2人共。」
――――気を付けておかないと。
こういう小さな歪みを見逃さなかった。
エルヴィンは――――いつも。
私は今度こそ、ハンジさんの部屋へと急いだ。