第207章 強
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エレンが懲罰房の奥に行ってしまって……ベッドにぎし、と腰かけたまま……頭を垂れた。
――――私は胸元を正す。
――――夕暮れ時にリヴァイ兵士長達が発つ時……私の体を強く抱きしめてくれたその余韻はもうエレンの腕の力強さにかき消されて、エレンの爪が食い込んだ箇所は……鬱血して赤紫色になっていた。
「――――ごめん、ナナ………。」
目を合わさないまま小さく謝罪の言葉を呟いたその声は、今にも泣き出しそうな少年のようだ。
「大丈夫。……また、食事……持ってくるね。」
「――――………。」
何も言わないエレンを後に、私は石造りの階段を上った。
胸が軋む。
結局私は――――……エレンにすら守られる対象で……、姉らしく、家族らしく……力になってあげることさえ……できなくて……、話して……心を開いては、くれなかった。
――――でも、信じる。
エレンは……ちゃんと自分の意志で、考えて行動をしている。ジークさんに唆されたのじゃなく、投げやりになっているわけでもなく。
あの子自身が考えて辿り着く先の未来を……信じる。
「――――でもね、エレン……、やっぱり心配くらい、させて欲しいよ……。」
小さく呟いたその声がエレンに届くはずもなく、私はふるふると雑念を振り払うように頭を振って、ハンジさんのいる部屋へ戻ろうと廊下を急ぐ。
すると、とある部屋の一室の、僅かに開いた扉の隙間からなにやら言い合うような声が聞こえる。
――――若い女性同士の声。
この声は……アイビー?
そう、思った瞬間に、足音がこちらに向かって来て、僅かに開いていた扉が大きく開かれた。そこから飛び出して来たのは、やっぱり。
アイビーだった。
「……アイビー?」
「……っナナさん……!」