第207章 強
「だめ、です………!さすがに、見られ……!」
「見られなきゃ、いいんだな?」
「え―――――」
羽織っていた自由の翼のマントの襟元を解いて、裾を掴んでナナごと覆う。バサッ、と音を立てて即席で作ったその帳の中で、ナナの目は大きく開かれた。と同時に、食らうように獣じみたキスをする。
「――――んッ、……は……っ……ぁ……。」
一瞬抵抗の様子を見せたが、ナナはすぐに柔らかな舌を差し出して俺に応えた。
――――可愛い、俺の―――……ナナ。
その甘く香る首筋に顔を埋めて、もう片方の腕で抱き潰しそうなほど強く強く、その体を抱き締めた。
――――名残惜しいが、時間だ。
「――――行ってくる。ナナ。」
帳の役割をしていたマントを翻してナナに少しだけ目線を残して、背を向ける。
「――――っリヴァイ、さ……!」
ナナは弾む息の合間に、俺を呼び止める。
「なんだ。」
「――――帰ってきて、ね……。」
「――――ああ、お前を、また抱くために。」
「………はい……!」
ナナは切なそうに自らの唇に指先で触れて静かに睫毛を降ろした。次にその瞳が強い意志で開かれた時には、もうすっかり兵士の顔で――――……心臓を捧げる敬礼と共に、俺を見送る。
「――――御武運を。リヴァイ・アッカーマン兵士長。」
「―――お前もな。ハンジを頼んだ。」
「はい!」
――――こうして俺達は、ハンジやナナと別れた。
――――この時、重大な罠に俺は気付けなかったんだ。
そのせいで――――……多くの仲間を、失うことになる。
――――ただ一つ……ナナを連れて来なかった判断だけは間違っていなかったと後に思った俺は……兵士長などと名乗る資格もないかもしれない。