第206章 隔意
「なぁ……っ……、俺の前でも、ただの女に成り下がれよ!!!」
「できない!!!」
「――――………!」
感情を露わに叫んだエレンに、私も大きな声で言葉を返す。
「エレンは家族で……大事な、存在なの……っ……!」
「――――………。」
「だから、あなたが苦しいのは……っ……1人で背負い込むのは、私も……ミカサも……アルミンも……ハンジさんも、リヴァイ兵士長も…っ、みんな、苦しい!!」
息を荒げながらエレンを見上げる。
――――伝わって。
どうか。
あなたの心に、触れさせて。
「――――お前を家族だなんて、思ったことは一度もない。」
「――――………。」
――――エレンの表情は、苦悶に歪んでいた。
「――――ガキの頃からずっと、ずっとずっと――――……好きだった。」
「……うん………。」
苦しそうに言葉を繋ぐエレンの髪を、そっと撫でる。
随分大人になったように見えて……やっぱりまだ脆い。
たった19歳で人類の命運を背負って……なんとかしようと、足掻いて苦しんでいる。
――――私の大事な、もう一人の弟だ。
「――――そうか……ごめんね、エレン。」
両手をエレンに伸ばして、その頭をぐっと引き寄せて……冷たい格子越しに抱き締める。
「――――いつまでも心配ばかりするんじゃなくて……、あなたがやろうとしてること、ちゃんと信じなきゃ、いけなかった。」
「――――っ………!」
――――ロイの時も、そうだった。
時間がかかっても。
紆余曲折しても、血や泥にまみれても……、彼らは大人になろうとしている。大事なものを自分なりに、守ろうとしているから。
――――それを一番信じてあげないといけないのは、私達だった。
エレンは少し身体を震わせた。
その大きく開かれた猫のような目は、私の知ってる……いつものエレンの目だ。
そこから大粒の涙がぽろり、と一粒、零れた。