第206章 隔意
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目の前のエレンが、まるで知らない人みたいだった。
鍛えていてもまだ薄く、しなかやかだった入団当初の体とはまるで違う鍛え抜かれた逞しく厚みのある体は、上半身になにも纏っていない姿は目のやり場に困るほどだ。
伸びた髪を無造作にまとめて、その毛先からぽた、と水が滴る。
カルラさん譲りの大きくて意志の強い瞳が送る人懐っこい柔らかな視線は鋭く研ぎ澄まされた目線に変わっていて……私を、見下ろしながら、私を無力だと……容赦なく現実を突きつけてくる。
「命を落とす前に、王都に帰れ。」
やっぱりエレンにとって……飛行船の中で感じた通り、私が調査兵団に戻って来ていることは不都合なんだ。
でも……、でも……!私だって、簡単に折れるわけにはいかない。私はエレンを見上げながら睨み付けた。
「………嫌……!」
私が拒否の目を向けると、エレンは苛立ったように鉄格子の間から私の腕を掴んで強く引き寄せた。
「――――強情だな。」
「……脅しても無駄だよ。」
「――――また妊娠すりゃ、帰るか?」
「!!」
その言葉に唖然とする。
「相手してやろうか。ちょうど俺もこのイライラした鬱憤をどうにか発散したいことだし……。――――団長から兵長にすぐに乗り換えたほど尻の軽い淫乱女は、結局誰でもいいんだろ?」
「――――………。」
「なぁナナ。俺がその気になれば……お前を組み敷いて犯すことだってできる。お前は俺に何もできやしないんだよ!」
エレンは両手で私のジャケットの胸元を開くように掴んで強く引き寄せて――――、ガシャン!と音を立てて私は鉄格子越しに捕らえられた。
――――その表情は……脅しているようにはとても見えない。
なぜそんなに、辛そうで……苦しそうなの。
……私はエレンの手に掌を重ねて少し俯いてから、ゆっくり顔を上げた。