第206章 隔意
「――――エレン、大きくなったね。」
「――――久しぶりに会う度にそれを言うな、ナナは。」
「……ふふっ……だって、本当にそうだから……。こんなに見上げるようになるなんてね。」
俺に大きくなったと言うナナは……ずっと変わらない。変わったと言えば……長かった髪が短くなったことくらいか。
娘がいるなんて、誰も信じないだろうと思うほど昔のまま綺麗で……小さくて、柔らかそうで……守ってやらなきゃと、思うんだ。
「あなたが大事なの。エレン。」
ナナは更に鉄格子に一歩近付いて、至近距離で俺を真っすぐに見上げながら、俺の手をそっと両手で握って言った。
「――――1人で抱えてなくていいから……!この島の未来を、1人で考えなくていい……!一緒に考えさせて……!みんな、それを願ってる……。」
「――――無理だ。俺にしか視えないものがあって……俺にしかできないことがある。ナナ……お前は無力だ。思い知ったろ?役に立たない。――――王都へ帰れよ。」
ナナはぐ、と傷ついたように……怯んだように一瞬俯いた。自分が無力だったと、誰より一番感じているのはナナ本人だろう。
それをわかっていて、更に傷を抉る言葉を続ける。
「――――足を引っ張るだけだ。……あんな安いジークの挑発に乗って、乱れて……。」
「……それ、は……。」
「――――医者のくせに、サシャも救えなかったよな?」
「――――!!」
ナナが目を見開いて、俯く。
――――そうだ、絶望して見限れ。
ナナが可愛がった、素直で可愛いエレンはもういない。
――――なんとか、なんとかこの戦場から離れてくれ……。血まみれで横たわるあの記憶の欠片が実現してしまう前に。
「命を落とす前に、王都に帰れ。」
ナナはふるふると小さく悔しそうに体を震わせながら、俺を見上げて睨んだ。