第206章 隔意
「――――2年前……キヨミを初めてパラディ島に向かえたあの日、ジークの提案に君は反対した。ヒストリアを犠牲になどしないって……そう、言った。君が言った通り別の最善の策を模索しようとも……別のやり方はまだ見つかっていなかった。確かにジークの任期を終えて獣の巨人を他の戦士に移されるその時は迫っていたし……予想より早くマーレはパラディ島侵攻計画を進めて来た。君と焦燥感を共にしたつもりだった。」
「――――……。」
「でもなぜ君が単独行動に出てこの島を危機に追い込んだのかがわからない。もうヒストリアはどうなっても良かったのかい?」
「――――俺は戦鎚の巨人を食いました。」
「……え?」
「この巨人の能力は地面から自在に硬質化を操り武器でも何でも生み出すわけです。つまりどれだけ深く硬い地下に俺を幽閉しても無駄だってことです。俺はいつでも好きな時にここを出られる。」
反逆の意志を顕にしてハンジさんの方へ歩み寄ると、彼女は驚きと困惑の混じった表情を見せた。
――――あの頃は、見上げていたけど。
今はもう、ハンジさんを俺は見下ろしている。
「当然、始祖を持つ俺を殺すこともできない。いくら脅したところでジークを殺すわけにもいかない。」
「……エレン……っ!」
俺の放つ空気に怯えつつも果敢に、ナナがハンジさんの側まで歩を進めて寄り添った。
まるで猛獣からハンジさんを引き離そうとするように、その腕を引こうとした。
「つまりハンジさん、あなたに何ができるって言うんですか?」
鉄格子の隙間から、ハンジさんの胸ぐらを掴んで引き上げる。
「うッ?!」
「……っやめて、エレン!!」
――――イライラする。何もできないくせに。
綺麗ごとじゃもう覆せない状況なんだと、わかれよ。そうやって兵団もあんたも、足踏みしている間に手遅れになる前に……俺がやってやる。
「教えてくださいよハンジさん。他のやり方があったら!!教えて下さいよ!!!」
「ッ………?!」
ハンジさんは焦ったように顔を背けて俺の手を振り払った。
「エレンのエッチ!!未だに反抗期かよバカ!!……若者!!」
ハンジさんは逃げるようにその場を後にし、残されたナナは、悲しい目でゆっくりと俺を見上げた。