第206章 隔意
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薄暗い地下牢。
兵規を犯したとして懲罰房に入れられているが――――、無駄だ。こんなところに閉じ込めたところで……俺は前の俺とは違う。誰も俺を拘束できないし殺せない。
――――俺は俺のやりたいように、進みたいように進むだけだ。
古びた手洗い場の水道は、捻っても空回りしたような音がする。俺は蛇口を何度も強く捻った。急に吹きだすように流れた水は冷たくて……思考を晴らすためにちょうどいい。
両手でその冷たい水を掬って顔を洗う。
―――――ナナが本当にいた。このレベリオ襲撃という無謀な作戦のど真ん中に。――――くそ、こんなはずじゃなかったのに。とにかく無事に作戦を終えられた。――――だが、ナナのあの錯乱した様子と叫び声が目から、耳から離れない。
『―――――エルヴィンを、みんなを、返してよぉっ………!』
ジークに泣きながら詰め寄るナナはジークに比べると驚くほど小さくて非力で……、そのナナが乱れる様子を見下ろして僅かに口角を上げるジークに苛立った。
多くのエルディア人を救うため、故郷を欺き続けて大義を成すためという理由があったとはいえ……俺達の仲間を……ナナの愛したエルヴィン団長を殺した。
そしてそれをわかっていて更に、ナナをけしかけて乱した。
――――何がしたい。
ナナをどうする気だ。