第206章 隔意
「……思いました、憎いって。――――殺したい、って……。」
「もしお前がジークを殺そうとしたら、俺は止めるぞ。」
「……それはなぜですか?」
「――――きっとお前が後悔するからだ。」
「…………。」
「お前は言っただろう、『9つの巨人を宿している奴らと、話してみたい』と。――――俺には正直それが理解できなかった。……でもお前なら……本当に……相手のことをちゃんと知って、憎しみ合う以外の何かを……見つけられるんじゃないかと、思うから。」
サッシュさんは私を見下ろして、切なげに笑った。
「――――仲間を守るために、信じるもののために……命を奪わなきゃならないことはある。現に今もしジークがここで暴れたら……俺は容赦なくその項を削ぐ。――――これはそういう戦いで、綺麗事は通用しない。」
「………はい………。」
「……でも… “憎いから” 殺したその先に何が生まれるかを考えたら……また憎しみが生まれるだけなんだろうなって、ようやく……今冷静になれば、わかる。」
「………っ……はい………。」
「――――だからナナ、俺を止めてくれて、連れて帰ってくれてありがとう。」
サッシュさんが目を細めて笑いながら……でも僅かな悔しさを滲ませて、私の頭を撫でる。その表情に私もまた酷く切なくなって、潤んだ目から涙が零れ落ちないように耐えた。
「――――こちら、こそ……っ……。私のために、怒ってくれて……ありがとう、ございます……。」
「ああ、いいよ。んなら、今度ビールかワインか驕れよな!」
「……ふふ、はい……!」
サッシュさんはすぐに私の側を離れて、帰着した後の動きを兵士達に指示しに行った。
その背中は大きくて頼りがいがあって……、そしてその心の強さと健やかさに、私はまた救われた気がした。