第17章 蠱惑
「結局、途方もない数の人間を見殺しすることを受け入れる私が、怖いか?」
エルヴィン団長が遠い目をしてふふ、と笑った。
「はい。でも………私も、避難所の病人や怪我人のを見殺しにしてここに来ました。だから、私も同じです。」
そうだ。自分もそう決めて調査兵団に来た。
小さな病院で数名の命を救うのでは足りない。
もうそんなものではこの世界の理屈は変えられない。
だからあの避難民の患者さんたちを捨てて、見殺しにしてここに来たんだ。
「………匂い立つほどに、とはこのことだな………。」
エルヴィン団長は何かを小さく呟くと、手招きをする。
どうしたのだろう。
来いということか?と不思議に思いつつ、少し可愛らしいその仕草につられるようにエルヴィン団長の側に寄った。
何か?と首をかしげると、エルヴィン団長はその大きな手を私の後ろ頭に添えて引き寄せた。
すごい、力だ。私の身体は反射的に強張ったが、なんの抵抗にもならず素直に引き寄せられてしまった。
「――――――クラバットも実によく似合っていたが、やはり髪につけているほうがいいな。首に巻いていると………リヴァイの鎖に繋がれた首輪のようで―――――少し、妬ける。」
耳元で囁かれるその声の低さと艶やかさに眩暈がしそうになる。私は驚きのあまりガタッと音を立てて勢いよく後ろに後ずさった。
「っ…………!」
「今日はもう下がって良いよ。続きはまた明日だ。おやすみ、ナナ。」