第205章 開戦⑤
「お前が“憎い”という感情を持つことはやましいことでも、悪いことでもない。受け入れろ。大事なお前の感情だろう。」
「…………っ……。」
「――――だが乱れるな。感情に飲まれて見失うな。いつでもこうやってやれるわけじゃねぇ。」
「――――………。」
乱れきって情緒が不安定なナナにかけるには厳しい言葉だとわかっている。
ナナは僅かに肩を引きつらせて手をきゅ、と握りしめた。
――――本当は……全て投げ出してナナだけを守って……辛い現実など見せずに閉じ込めておきたい。
だが、そんなことを望まない女だ、こいつは。
「ここにいるお前はなんだ?いつまでも “リヴァイさん” に守られてるナナか?」
俺の言葉にナナはぴく、と反応して、大きく見開いた目で俺を見上げた。
その瞳は涙で濡れている。
いつもいつも、よく泣くんだ……俺のナナは。
「……わた、しは……。」
「――――違うだろう。お前はエルヴィンが育て上げた、調査兵団団長補佐のナナ・オーウェンズだろう。あんな髭面に面食らってるようなタマじゃねぇはずだが。俺の見当違いか?」
「――――………。」
「そんなぬるい覚悟でここに戻ってきたのか?――――守れるのか?そんなことで……娘を。」
ナナは一瞬俯いて、自らの手で力強く涙を拭って顔を上げた。