第205章 開戦⑤
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ひどく取り乱した状態でジークに掴みかかって憎しみをぶつけるナナの肩を抱いてジークから引き離す。
こんなに息を荒げて呼吸を乱すのは……久しぶりだ。
また過呼吸になりそうなほど、ひきつるような苦しそうな呼吸を繰り返して涙を零す。
「―――てめぇは、よほど殺されたいらしいな……。」
「えっなんだよ、俺はただ世間話をしただけなのに?」
あくまで意図していないと、わざとらしく困ったような顔で言いやがる。
――――ジークの狙いはなんだ。
ナナを揺さぶって乱して、何がしたい。
あのウォール・マリア最終奪還作戦の日の惨劇を想起させた。エルヴィンと生涯を誓った仲だったということも、知っていたはずだ。その上でわざわざ、だ。
いつものナナならその意図も理解したうえでなんとか抑えられたかもしれないが………サシャの死が、輪をかけてナナを乱した。
はぁっ、はぁっ、と息を荒げながら胸を押さえるナナの側にハンジが寄ってきて、俺に目くばせをした。
「――――リヴァイ、ナナを連れてって。ここは私がいるから。」
「――――ああ。」
俺がナナを抱き上げると、心配そうに一歩近寄って来るのはサッシュだ。
「大丈夫だ、お前はこいつらを見張ってろ。」
「―――はいっ……。」
船室の一室には、仮眠をとるための部屋がある。
その部屋の簡易的なベッドの一つにナナを降ろして話しかけると、ナナはベッドに腰かけて苦しそうに顔をしかめたまま、俺の手をぎゅ、と握った。
「ナナ。」
「……ご、め……な、さい……。」
途切れる呼吸の合間に、ナナの唇は謝罪の言葉の形に動いた。