第204章 開戦④
「サシャ……っ、サシャ……!だめ、行かないで……しっかりして……!」
「―――――ナナ……さん……?」
血を失い過ぎて朦朧としているはずのサシャが一瞬、私の呼びかけに反応して目を薄く開いた。
「………にく……食べ……」
「――――喋っちゃ………。」
喋っちゃダメと、言いかけて……私はやめた。
言いたいことを……彼女の言葉をちゃんと聞くために、しっかりと両手を握ってその顔を覗き込む。
「なに、サシャ。」
「―――なおり、ますよ……。」
「――――うん。そうだね。狩りをして、食べさせてくれるんでしょう?」
いつかした約束をサシャは覚えてくれていた。
私が涙を堪えながら笑うと、サシャは僅かに口角を上げた。そして焦点が合わない目をして、今度こそ少し、笑った。
「―――あなた、のまま……いい、って――――うれし…………った………。」
「―――――サシャ――――……っ……。」
かくん、と力尽きたサシャの体に、もう鼓動は感じられなかった。
サシャの虚ろに開いた目を閉じさせてから、到底堪えられない涙を……流した。
「――――うそ、だろ………っ……!おいっっ、目ェ開けろよサシャ!!!」
「―――コニー……、ごめんね……。」
「うわぁあぁああっ………!」
コニーの叫び声と同時に、扉を跳ね除けてアルミンとミカサが駆けつけた。
――――どれだけサシャに呼びかけても、体をゆすっても――――……
彼女は二度と、笑わない。
「――――報告……しないと……。」
私は泣き縋る皆を残して、船室へ向かった。