第204章 開戦④
「――――サシャ?!?!」
ルイーゼとアイビーがなんとか止血を試みようとしているけれど……これは……。
「ナナさん……!全然っ……血、止まらな……っ……!」
泣き出しそうに青い顔をしたアイビーが、手を血まみれにして私に訴えかける。
一瞬足が震えた。
けれど慌ててそのすぐアイビーの横に膝をついて、サシャの容体を診る。
「――――損傷がひどい……っ………。」
血圧がもう下がり始めてる。
輸血用の血液なんてここにはない。とにかく止血を、と損傷した腹部周りの衣服を取り除いて傷口を診ようとした瞬間、サシャが大きく咳き込んで吐血した。
その瞬間、咳き込んだ腹圧で更に傷付いていた大きな血管が破れたのだろう、腹部から鼓動に合わせて飛んだ血が、私の顔に飛散した。
「――――ひっ……!」
あまりの状態に、隣にいたルイーゼとアイビーが悲鳴を上げて後ずさった。
サッシュさんは見ていられなかったのか、苦々しい顔をして……縄をかけた2人の子供を連れて船室へ向かった。ジャンもまた苦しそうに顔を歪めながらその後を追った。
――――ずっと双子のようにいつもサシャと一緒にいたコニーは……何も言わず、ただ私の処置を呆然と……見つめていた。
私は無我夢中で止血するため破れた血管を手探りで探す。
でも……直接鉗子で圧迫して止血したくても……こんな暗がりで、大量の血液が噴き出す中でそれを見つけられない。
――――また失う、大切な人を救えずに……私は――――……。