第204章 開戦④
ナナは俺の背中をそっとさすって、にこ、と眉を下げた笑顔を見せてから……この後の飛行船の操縦補佐に戻るのか、操縦室へと走って行った。
――――情けねえな。
ナナだって……エルヴィン団長を直接的に殺したジークと今、同じ飛行船に乗ってる。憎いだとか殺したいだとか、そんな私情に振り回されずに自分のやるべきことをやってるってのに……。
はぁ、とため息をついたその時、104期の面々が俺に笑いかけた。
「ちょっとサッシュ隊長、戻るの遅いですよ!」
「……うるせぇ、ちょっとした用事があったんだよ。隊長だからな。」
サシャがふ、と笑いながら俺を肘でとん、と小突いた。それに乗っかるように、ジャンが生意気に物を言う。
「そうですよ。ちゃんとしてくださいよ。あんたがいないと士気が下がる。」
「は……偉そうに。」
「ナナさんがこれで怪我とかしてたら、生きて帰っても兵長に殺されてましたよ?」
「――――まぁそれは……確かに。」
コニーが茶化すようにケラケラと笑う。
こいつらは本当に……逞しいな。
こんな戦火の中でもまたもや、それぞれが自分の役割を全うして生きて、戻って来た。
「大勝利だ!!我ら新生エルディア帝国の初陣は大勝利だぞ!!」
ぎゃあぎゃあと必要以上に騒ぐ新兵を焚きつけてんのは……フロックだ。
勝利を喜ぶのは悪かねぇが……、人を殺したことを正当化して英雄のように語り、讃え合って……そうして突き進む先に何があるのだろう。
それを思うと……さっき俺を支配していたあの負の感情に取り込まれる前にナナが腕を引いてくれたことに感謝すべきだと……そう思った。