第204章 開戦④

　”生きて帰って。お願い。”




ぴく、とそのトリガーを引く指が硬直した。





「――――……リンファ……。」





もう飛行船に乗り込まなきゃ、俺はもうパラディ島へは帰れない。

―――それでもお前の死に値する苦しみをこいつらにも――――……そうだろ？なぁ。お前のこれからを奪うことになった元凶を俺は――――……許せねぇよ。





「―――――サッシュさん！！！！！」





俯いた俺の腕を、誰かが強く引いた。

……リンファが命を懸けて守ったナナが、苦しそうに眉間に皺を寄せて俺を見上げている。





「帰りましょう！！！」



「――――こいつを、殺す。俺は置いて行っていい。」



「駄目です！！！」



「―――――………。」



「誰も喜ばない！！リンファも、私も………っ、リヴァイ兵士長も！！アーチさんも！！！」





こいつは時々、この小さな体のどこからそんな迫力を出すのかと思うほどの鬼気迫る姿を見せる。







「生きて帰って――――……お願い………。私達と、一緒に……ねぇ、サッシュさん………。」







ナナは俯いて、懇願するように言った。

その声は震えてて……、ずりぃよな。



――――俺はリンファと同じだ。

お前が泣いてると、どうしようもない気持ちになる。







「――――ああ、わかった……。」







俺がくしゃ、とナナの髪をいつものように撫でると、ナナは心底安堵した表情で俺を見上げた。





「帰りましょう、私たちの居場所へ。」



「――――……ん……。」





初めてナナに手を引かれて、俺達はなんとか飛行船に引き上げた。俺達が乗り込んだ後、最後尾をロボフさんが勤めてくれているのを横目で見て……あぁ終わったんだという安堵と、どれほど殺したのか……どれほど自分が人を殺すことに慣れてしまったのかと思うと……まだヒリつく胸の内に僅かに眉を顰めた。