第203章 開戦③
顎の巨人ごと頭上に持ち上げ、顎と頭を押さえつけて力づくで顎を閉じさせる。
――――案の定、顎の巨人の鋭い牙が水晶体に食い込んで……ピシ、と亀裂が入って……中の本体の女の体もろとも、粉々に粉砕した。
そこから滴る血と――――脊髄液を喉の奥に流し込む。
ごくん、と喉を鳴らすと……無限の世界の中に、新しい炎が灯ったような……妙な感覚を感じた。
――――これで、戦鎚を取り込めた。
あとは……こいつも、食ってやるよ。
顎の巨人。
みっともなくバタバタと身を捩って抵抗する顎の巨人を叩きつけて戦意を喪失させる。
――――中身の本体の意識が途切れたのか、抵抗を見せなくなったその項を食いちぎろうと口を開けたその時……
俺の背後には……硬質化が解かれ以前のような鎧の巨人を纏いきれていない、ライナーの面影をそのまま残した巨人が、何かに突き動かされるように立ち上がった。
ただ一発簡単に殴り飛ばしただけでライナーは吹っ飛んだ。
……が、その手には顎の巨人が奪還されていて……あいつなりの意地を、見た気がした。
俺が巨人体の中から抜け出ると、すかさずミカサが駆けつける。
「エレン!!」
「さすがにもう打ち止めだ。力はもう残ってねぇ。ライナーは……今は、殺せやしない。」
――――ライナーにはまだ、役目が……残ってる。
そう、俺には視えている。
――――この戦争の、更に先の世界も。
「……じゃあ帰ろう、私たちの家に。」
「ライナー……またな。」
俺はミカサに連れられて、予定通り上空に接近してきた飛行船に乗り込んだ。その時、手を差し伸べてくれたのは……アルミンだった。
俺の視た通り……全てが予定通りに運んでいる。
巨人化を連発させてもうあまり力も残っていない身体を引きずるように飛行船に乗り込むと、懐かしいその声が俺を呼んだ。