第203章 開戦③
「何って汚ぇナリだ……。」
俺を信じて、守って……寄り添おうと、してくれた………リヴァイ兵長は、蔑んだような目で俺を見下ろした。
「糞溜めに落ちたらしいな、エレン。」
「……兵長。」
その瞬間――――あの裁判にかけられた日と同じ、脳を揺さぶるような衝撃と共に……俺の体は吹っ飛んだ。
――――思い切り、顔面を蹴り飛ばされたんだ。
「懐かしいなエレン……相変わらずお前は蹴りやすい。」
兵長のその顔は……仲間を危険に晒すような作戦を独断で決行したことと……、きっと……ナナを悲しませたことへの、怒りだった。
あんたはそうだ、昔から。
冷静沈着で、合理的で……けれど俺は知ってる。
いつだってナナの事が絡むと、手段を選ばない。感情で動く。
――――そんなあんたを俺は利用したんだ。
……壁の一番奥で守れるように……せめてあいつには、地獄みたいなこの場所から見る景色を、見せないように。
見上げた晴れ渡る蒼天の先に……自由の空を夢見て笑ってた……ナナのままでいられるように。
――――昔、約束したんだ。
俺が守ってやるって。
俺だけを見て、俺だけのナナにはならなくても。
―――――ナナが愛するあんたと子供と幸せに生きられる世界を、俺が作ってやるから。
それが――――……俺に唯一できる、守るってことだ。
それなのに――――……ナナがこの戦いの地に赴くことになったことを、俺はつい最近知らされた。
巻き込んだのはジークか。
信用しろと言う割に、イェレナを使って裏でなにかを進めている。
――――――無駄だけどな。
あの結末に向けて進む。
未来は変わらない。
変えられない。
定められた運命をただ辿るために俺は進む。
たとえそれが、何百、何千、何万人――――――――
殺さなきゃならないことでも。
俺はやれる。
俺にしかできないことだ。