第17章 蠱惑
ロイと話してから数日。何度も頭の中で反芻し、自問自答し、ようやく決心がついた。今日そのことを、エルヴィン団長に伝えなくては。
澄んだ空気の中、美しく煌めく星たちを窓越しに眺めながら、カップを温める。主がいないこの部屋は、シンと静まり返り、カップとソーサーのカチャカチャとした音だけが響く。
まだ部屋の主は戻らない。
私は手持無沙汰になり、窓の側で外を眺めながら歌った。
その時、ガチャ、と扉が開く音がした。
「待たせて済まない。」
「おかえりなさい。」
「………微かに聞こえた。歌っていたか?ナナ。」
「はい……星の歌を。あ、コーヒー淹れますね。」
私はいつもより少し熱めのコーヒーを淹れて、エルヴィン団長の机に置いた。
「………それで、君は調査兵団に残るのか、オーウェンズ家に残るのか、心は決まったのか?」
「はい。もとより、戻るつもりもありませんでした。」
エルヴィン団長の問に、散らかった書類を拾い集めながら答えた。
「そうか。それは良かった。」
いつも通りのエルヴィン団長に、私は少し魔がさした。試して、みたくなった。