第200章 魔法 ※
マーレ襲撃の日が、刻一刻と近付いて来る。
その日は……夜明けが来なければいいと、思った。
港に近い場所に設営されている大きな規模の兵站拠点。仮宿舎のような場所で、夜を明かした。
これまでリヴァイさんが私を部屋に呼ぶことはあっても、私が自ら部屋に訪ねて行って……夜を共にすることは無かった。でも、どうしてもその夜だけは一緒にいたくて……リヴァイ兵士長の部屋を、訪ねた。
扉を開けたその先にいたリヴァイさんはまったく驚いた顔なども見せず……来ると思っていたのだろう。だからあえてその日は私を呼ばなかった。呼ばなくても自分から抱かれに来ると……思われているのは少し悔しいけれど、でも……もしかしたら……二度と会えなくなるかもしれないその日を前に、愛しいこの人に触れたかった。
「――――どうした。」
扉を少しだけ開けて、要件を尋ねる。
要件なんて聞かなくてもわかっているだろうに、本当に意地が悪い。私はそんな意地悪には屈せず、まっすぐに目を見て伝える。
「一緒にいたいです。あなたが……許してくれるなら。」
リヴァイさんは私の手首を優しく引いて、腕の中に閉じ込めて扉を閉めた。とくん、とくんと鼓動が交じり合うことが心地よくて、ほんの数秒、リヴァイさんの腕の中で胸にすり寄って甘える。
「――――明日発つんですね。」
「――――ああ。」
「次に会う時は……作戦決行の、日……。」
「そうだな。」
「………会える?また………。」
「――――どうだろうな。俺達が敵勢力に殲滅させられるかもしくは……お前の乗った飛行船が撃ち落とされりゃ……これが最後の抱擁に――――……。」
リヴァイさんが淡々と言うその言葉を、思わず両手で彼の口を塞いで遮った。