第200章 魔法 ※
「……いい顔ですね。エルヴィン団長の亡骸の前で無力に泣き縋ってた時のあなたよりずっといい。」
「………やめて……っ……!」
フロックさんは挑発するでもなく、あざ笑うでもなく……立ち止まって、私をじっと見つめた。
私は警戒心をむき出しにして、一定の距離を保つように後ずさって彼を睨みあげる。
「―――あなたは、人類を救うために悪魔にすらなろうとする特別な存在の……彼らの意志を、いつもいつも妨げる……厄介な存在だ。」
「………悪魔になんか、させない……!エルヴィンもエレンも、私の大事な人なんだから……!」
「――――エレンはそれを望んでる。だからこの作戦を決行した。」
「………それでも……っ……、諦めない………!」
「………あなたはエレンを止められると思っているみたいだが……、それは自信過剰ですよ。もう奴は止められない。そんな甘い覚悟で1人敵国に潜入しているわけじゃない。――――あなたはただのお荷物でしかないと、もう少し自覚したほうがいいな。」
「――――………。」
「――――大事な人が悪魔に堕ちる瞬間を、絶望の淵で見届ければいい。――――今度こそ。壁の中で高みの見物なんてさせない。」
――――フロックさんの中で、あの地獄を見た日に抱いたエルヴィンへの怒りが……どこにも向けることができず、私に向いている。
――――構わない、それで。
私は少なからずエルヴィンの意志を継いでここにいるから。それが責任だと言うのなら、みっともなく泣き喚かず……ちゃんと、見届ける。
けれど最後まで、エレンを取り戻すことは諦めない。
――――本当は優しい子なの。
無関係の民間人を大勢巻き込んでしまうこんな殺戮めいた作戦を決行させるまで一人で……幼い気性のあの子を追いつめてしまったのは私達だから。
……一緒に考えて、一緒に戦いたい。
側にいさせてと……、ミカサが、アルミンがそう望むように、私もエレンに手を伸ばすことを諦めない。