第199章 愛日
「――――じゃあ、明日……娘さんに何かが起こっても後悔しないですか?」
「――――そんなことは、させない。」
「はっ……無力なあなたになにができるんです?」
「刺し違えるくらいはできる。」
ナナのその言葉は今までに聞いたことがないほど……ナナが言ったと思えないほど鋭利で……殺気を含んでいた。
「フロックさんの言う通り、私は弱い。だから……手を汚さずに守れるなんて思ってない。――――あの子に……私の大切な人達になにかする気なら、刺し違えても止めてみせる。」
命を奪うこと、命が失われる瞬間、それを最も忌避していたナナが。――――殺しても、死んでも守ると口に出したことにまた……驚く。
子を守ろうとする母とは、そんなにも……強いのか。
俺は扉を蹴破ってフロックを殴り飛ばして脅して……ナナのガキに手を出すんじゃねぇと釘をさしてやろうかと思ったそれをやめた。
――――ナナが、なんとか守ろうとしている。
なら……俺にナナが助けを乞うまで―――――見守る。
「――――強がりを……!」
ナナに気圧されたのか、フロックが捨て台詞を吐いた。俺は物陰に隠れると、屋上の扉がバンッ、と開いて……フロックが面白くない、と言った顔で足早にその場を去った。
――――少し待ってみても、一向にナナは階段を下りて来ない。ふと屋上を見ると、月明かりの射す方を見つめていたナナが、俺に気付いて振り返った。
「――――リヴァイ、さん……。」
――――聞かれたくなかった、という顔だった。
俺は何も言わないまま、気まずそうに目線を落としたナナの側に寄って……頭をくしゃ、と撫でた。
「――――お前の選択に口は出さねぇ。」
「…………!」
「――――ただ抱えられなくなったら、辛くなったら………助けてと、言えよ。」
ナナは驚いた顔をしてから俺をまっすぐに見つめて、僅かに泣き出しそうな顔で、笑う。
「――――少しだけ……。」
「――――あ?」
「――――……こう、してもいいですか……。」